コンパクト解説「旅の絵本を遊ぼう」4(アメリカ編)
旅の絵本4作目はアメリカ編です。前作の舞台であったイギリスの植民地からスタートして独立。若々しい国家です、とはいえ忘れてはいけないのは先住民の存在です。 文化と自然を楽しみましょう。そして、アメリカと言えば映画です。各シーンに映画の場面がちりばめられています。そのうちどれだけ見つけられるか楽しみです。
「旅の絵本」4
「表紙・裏表紙」
0)旅人は・・・ニューヨークはマンハッタンの摩天楼の中を馬で行きます。
基本的な視点は、セントラルパーク方面から南に向かって見ている配置を基準に描かれているようです。
大都会から始めるというのが、アメリカ編らしいですね。もっとも、大都会の郊外には、大自然が隣接しているのが、安野さんらしいです。
1)旅人の前では新聞(号外?)を配っている人がいます。何が起こったの か?
2)星条旗のビル 旅人の目の前には、独立13州を象徴する赤と白のストライプと、現在の州の数を表すスターが描かれています。青地に描かれる星は50の州の数を表します。
3)キング・コング 旅人の後方のビルの屋上にいます。1933年に作られた映画からですね。配っている号外は『キングコング』の出現についてでしょうか。
キング・コングは人間の都合でもてあそばれる自然を象徴しているように思います。映画の最後ではエンパイヤステートビルに登っていましたが、今登っているビルは??
4)エンパイヤステートビル 題字の右側に描かれています。 高さ443mは、当時世界一位だったクライスラービルを抜いて長く世界一高いビルでした。マンハッタンを代表するラウンドマークですね。そして、アメリカを象徴するビルですね。キングコングもこのビルに登りました。日本の特撮映画なら、東京タワーの役回りですね。Empire State Building写真
4)パンナムビル 題字の左側に「PANNAM」と記されたビルがあります。アメリカを代表するパンアメリカン航空の持ちビルで、マンハッタンのランドマークの一つであったのですが、湾岸戦争後の航空業界の苦境の中、1991年に倒産して、ビルも売り払われてしまい、メットライフ(Met Life)ビルとなっています。第4巻ができたのが1983年まだパンナム航空も元気でした。Met Life Building写真
5)世界貿易センタービル エンパイヤステートビルの奥に、霞むように描かれているツインタワー 。417mの建物の上にさらにのびるアンテナ(尖塔部)を加えて528mになります。この高さは、それまでの世界一の高さを誇っていたエンパイヤステートビル(443m)を抜いて、当時(1973年)世界一になりました。設計は日系アメリカ人のミノル・ヤマサキでした。
2001.9.11の同時多発テロによって今ではその姿を見ることができなくなってしまいました。
6)外輪船 題字左上の海上に描かれた船は外輪船のようです。その昔、ニューヨークを訪れた船ということでしょうか。
7)自由の女神 ヨーロッパからアメリカを訪れた移民の人たちがニューヨークで最初に見るのがリバティー島の自由の女神。ということで、外輪船のすぐ近く、背表紙に出るように、描かれています。自由の女神といえばアメリカの象徴ですが。元々は、アメリカ独立100周年を祝ってフランスから贈られたものです。
ちなみに、リバティー島はニューヨーク州ではなくニュージャージー州にあります。
8)クライスラービル 裏表紙に回り込んで、パンナムビルの左にそびえています。建設当時は自動車のクライスラーのビルだったようです。このビル当初高さ283mで世界一でしたが、直後にウォール街にウォールタワーが高さ284mで完成。そこでビルの上に36mの尖塔と追加して319mにして世界一を確保。ところが、翌年(1931年)にできたエンパイアステートビルに世界一の座を奪われました。
クライスラービル写真
9)裏表紙の真ん中下のビルに、ANNO 1983と記されています。ANNOは、安野さんの意味と西暦の意味を兼ねています。そして、1983はアメリカ編の出版の年というわけです。安野さん各巻に潜り込ましています。
10)吊り橋 海をまたぐ橋が見えます。雰囲気は、サンフランシスコ� ��ゴールデンゲートブリッジ(金門橋)でしょうか。
マンハッタンから見ることのできる吊り橋なら、マンハッタン島南端付近とブルックリン区を結ぶブルックリン橋(Brooklyn Bridge)(全長1,834m、中央径間は486m)あるいはマンハッタン橋(Manhattan Bridge)(全長 2,089 m )との可能性が高いと思います。さらに、細かく位置関係を考慮に入れるとウィリアムズバーグ橋(Williamsburg Bridge)と考えるのが最も妥当のように思います。
11)ナイアガラの滝 海のはずなのに何となく川のように見えて・・・ナイアガラの滝が出現です。安野さんらしい見事なだまし絵ですね。
12)滝のそばには小屋が建っています すごい水音とやら水しぶきやら大変な環境でしょうね。
「扉」
サイロの見える牧場地帯を旅人が馬で行きます。二人の子どもが旅人を見送ってくれます。アメリカといえば大都会ですが、国土のほとんどは田舎です。その田舎を大切にするのが安野さんらしいです。1巻と2巻と同じように、鏡の絵になっています。
シーン1西海岸(p1〜2)
0)旅人は 船でやってきました。3巻のイギリスからやってきたのですから東海岸のはずなのですが・・・ぐるーっと回って西海岸側です。旅人の進行方向を自然にするために西から東へ向かう旅にしたようです。旅人は、東から西へ向かう開拓者達とすれ違うことになります。
1)氷原を行く犬ぞり アラスカも合衆国の大切な州の1つ。そ� ��にある犬ぞりとくれば、アメリカ先住民の1つイヌイット(エスキモー)の犬ぞりと言うことでしょう。
2)サーファーと海水浴客が旅人に手を振っています
この島は、合衆国のハワイ州をイメージしているのでしょう。
3)フラダンスをおどる人たち
ここにも、アメリカ先住民と言うことになります。ハワイと言えば、フラダンス。楽器はウクレレのはずですが、大きさはギターっぽいですね。
5)カヌーをこぐ3人の人
この人達はハワイの人でしょうか。
あるいは、アラスカ、ハワイときたのですから、カリブ海にある自由連合州プエルトリコの先住民をイメージしているのではという説もあります。
シーン� �上陸(p3〜4)
0)旅人は サンフランシスコ郊外にある小さな漁港にやってきました。早速、旅の友になる馬を手に入れたようです。ついでに、これから行く道について情報収集もしています。
1)お母さんと山羊をつれた子どもがいます。
近くに郵便受けがありますが。少し家から離れすぎています。
この少年は、映画『シェーン』(Shane)にでてくる少年ジョーイを感じるのですがいかがでしょう。とするとバケツを持った女性は母のマリアンで、旅人と話しているのが父のジョー・スターレットというわけです。そして、旅人は、シェーンの役回りというわけですが。いささか妄想気味ですか??ただ、安野さん『シェーン』がお気に入りで、この後にも何度か出てきます。
7)つり竿を持った老人が骨だけになった大魚を引きずっています。そして、子どもが付き添っています。これは、アーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』(The Old Man and the Sea)からでしょう。安野さんは、この話が好きなんでしょうね。第3巻にも出てきました。
8)浜に小舟が2艘あげられています。一艘は、旅人の乗ってきた船。一艘は老人の船でしょうか。
9)魚屋さんの向こうの家は?壁にある丸いものは??車輪でしょうか、なら車屋さん。それともバラ窓でしょうか?田舎の家にはふさわしくないようですが。
15)子どもが立っている家は、2階が随分せり出しています。雨よけには良いけど、構造的には心配ですね。
19)岬の岩場で一人で釣りをしている老人(?)がいます。これも、『老人と海』の老人を連想させます。
20)旅人の向こうに熊がいます。グリズリーベア(ハイイログマ)のようです。ヒグマの仲間 で、肉食傾向の強い、強力なクマです。家畜を襲うこともあり、おそれられていましたが、現在のカリフォルニアでは絶滅しています。ですから、ヨセミテなどに出てくるクマは、ブラックベアで、比較的おとなしいクマですね。映画『グリズリー』のイメージでここに出てくるのでしょうか。
21)クマの左には、トーテムポールが立っています。先住民が自らの部族を象徴する動物が彫られています。人と動物をつながっていると考える、先住民文化の象徴ですね。
22)橋が架かっています。こちらは間違いなくゴールデンゲートブリッジ(金門橋)でしょう。アメリカ西海岸のサンフランシスコ湾と太平洋が接続するゴールデンゲート海峡に架かる吊り橋です。主塔の間の長 さ(中央径間、支間)が1,280メートル、全長2,737メートル。主塔の高さは水面から227メートル。1837年の完成時から1964年まで世界最長の橋でした。今でも、美しく観光名所です。その一帯は国立公園に指定されています。
23)霧の向こうには、サンフランシスコの街が見えています。
24)三角形にとがった建物は、トランスアメリカ・ピラミッド・ビルです。48階建てで高さ256m、サンフランシスコのシンボルですね。
シーン3 石油採掘(p5〜6)
0)旅人は、乾燥地帯の原野を悠然と行きます。
1)左上 3人のネイティブアメリカン(アメリカインディアン)が馬に乗ってゆきます。この3人次のシーンにもあらわれます。なにか、元ネタがありそうですが不明です。
この一帯、白人が現れる前のアメリカ先住民の生活を表したもの・・とも考えましたが、コロンブス以前に新大陸に馬はいませんから・・・イギリスからの植民が始まる前ですかね。
あるいは、チェロキー族等の強制移住を象徴しているのかも
2)ティピーが3つ描かれています。平原「インディアン」の組み立て式住居です。支柱が円錐状に立てられていて、テントの中央には柱がなくて、� �ん中で火をたくことが可能です。煙などは中心の柱が交差するところから抜けていくのです。なかなか優れもののテントです。元々幕はバッファローの毛皮で作っていたようですが、後には布を使うようになります。絵のテントは、布を使っています。そして、ティピーにはバッファローが描かれています。
3)バッファローが4頭います。
狩猟を中心とするネイティブアメリカンは、バッファローと共にあったといえます。白人によって、バッファローが絶滅されることで、伝統的生活が不可能になってしまいます。
4)リンゴを持って、木の苗を指さしながら女性と話している人がいます。
この人は、ジョン・チャップマンです。通称ジョニー・アップルシー� ��。りんごの木を植えた人として、伝説上の実在人物です。
リンゴは育ちやすく収穫しやすい作物なので、キリスト教の宣教師であったアップルシードは、、西部各地を回って苗木を提供して回ったのだそうです。その姿は、麻布のコーヒー豆の袋を身にまとい、ブリキの鍋を頭にかぶった裸足の男とあります。安野さんの絵では、スーツを着ていて宣教師らしいですね。
彼は、人だけではなく全ての生き物に対しても大きな愛を持って接していて、開拓民はもとよりネイティブアメリカンにも慕われていたそうです。40年後の1845年、インディアナ州、フォートウェーンで亡くなりました。
5)丸太小屋に住む開拓者の生活が描かれています。
これは、ローラ・インガルス・ワイルダーの物語『大きな森の小さな家(Little House in the Big Woods)』の挿絵からです。
この話を元に作られたアメリカのTVドラマが『大草原の小さな家』です。
6)小屋の前ではバターを作っている女の子がいます。ローラです。
7)木に何か差し込んで、樹液を採集しています。これは、カエデの木から甘い樹液を集めているのです。
8)小屋の左側で、木の間に大きな鍋をつるして煮詰めています。これは、先ほどの樹液を煮詰めてメイプルシュガーを作っているところです。
右の絵はCurrier & Ivesによる『Maple Sugaring』という絵です。同じようにメイプルシロップを作成中です。
安野さんの絵は、鍋を木と木の間に渡した棒に吊していますが・・・木が傷んでしまいそうです。
10)女の人が何か塔のようなもののところで何かしています。お母さんが肉の燻製を作っているところです。
11)カエデの木の下にとても小さな家があります。これは、バージニア・リー・バートンの絵本『ちいさいおうち』からです。
丘の上に建つ小さなおうち・・・しだいに周囲が大都会になって、ビルの谷間に埋もれてしまいます。
そして・・・・
12)バスケットボールをしている若者達がいます。
バスケットボールは、1891年にアメリカのJ・ネイスミス博士によって考案されたスポーツです。
ところで、このゴールポストやけに高いです。この高いゴールポストにたいそうなほどジャンプしようと思ったら、とんでもないことです。そんなにジャンプしてないとすると、ずっと向こうでジャンプしていることになります。安野さん得意のだまし絵ですね。
13)バスケットボールを見ている3人は、開拓時代の服装ですね
14)小屋で洗濯物を干しています。女性の所のドラム缶などは、調理用でしょうか?
15)高い井戸が設置されています。石油掘削用 の井戸だと思います。右の絵は、古い時代の採掘用の井戸です。
16)旅人の手前には 幌馬車で旅している人が、調理中です。何かの映画のワンシーンかもしれません
西部開拓者の一人と考えればいいのかも
開拓時代f調理道具類についてはこのHPを(英語です)
シーン4モニュメントバレー(p7〜8)
0)旅人は 西部劇の舞台として有名なモニュメントバレーにやってきました。
メサ mesaといわれるテーブル形の台地やさらに侵食が進んだビュート Butte (残丘)といわれる岩山が点在していて、まるで記念碑(モニュメント)が並んでいるような景観を示している。赤ぽいのは、鉄分を多く含み酸化鉄の色です。
1)前のシーンにも登場した3人のネイティブアメリカンが、子どもと夫婦(?)と子馬を連れて旅しています。何か物語がありそうですが・・・不明です。ここは、ナバホインディアンの居留地になっていて、ナバホの人たちによるツアーがあるようなので(ジープを使うそうですが)、このツアーのイメージなのかも。
2)手前のMerrick Buteと呼ばれるビューとの上でカメラを構えている人がいます。このビュートをこの位置から見るポイントを映画監督のジョン・フォードにちなんで、ジョン・フォードポイントというので・・・ジョン・フォードが映画を撮っているところとも思えますが、描かれているのはムービーではなくスティール写真用のカメラなので、風景写真家のアンセル・アダムスかもと言うことです。
3)たくさんの人が集まって葬儀の最中です。
これは、映画『シェーン』からです。開拓者の仲間のトリーが、ならず者に殺されてしまい、その葬儀の悲しみのシーンです。少年ジョーイの愛犬もしっかり描かれています。
バックに、『シェーン』の舞台になったワイオミング 州にあるグランドティトン国立公園の、ティトンの山並みがモニュメントバレーの中に見事に潜り込ましてあります。
ところで、原作の小説『シェーン』もあるようで、映画と小説をあわせて解説した、HPがあります。
興味深い内容です。
4)星条旗を立ててラッパを吹いてセレモニーをしている騎兵隊の人たちがいます。
これは、映画『駅馬車』(Stagecoach)のシーンからのようです。